ビーチコーミングの楽しみ方 How to enjoy beachcombing

 ビーチコーミングは、サーフィンや釣りと言ったレジャーと異なり、浜辺を歩き、興味のあるものを拾い集めたり、観察するものですから、特別な道具やスキルも必要ありません。そして四季を通して楽しめるので、気軽にはじめることができます。最低限必要なのは、歩きやすい靴くらいです。ただ、砂が入ってきますし、水辺を歩くので長靴があれば万全ですが、暑い夏場は蒸れたりして大変、そのあたりは臨機応変に選びましょう。

 また、浜辺は紫外線が強く、風も強いことがあるので、天候に応じてそんな対策をしてください。雨具などはハイキングで使えそうなアウトドアウェアを選ぶと使いやすいでしょう。

 それでは、季節に応じた服装を紹介しましょう。

 

夏 場

 真夏の浜辺、真昼間はまず歩けません。できれば日の出からAM9時ころまでが歩きやすいでしょう。そして夕方はPM4時ころから日没ごろまでが涼しくて歩きやすいのです。風の強い日には木綿の薄手パーカでもあれば便利です。またパンツもひざの辺りでジッパーにより着脱可能なものも便利です。特に夏場は紫外線対策をお忘れなく!

 

冬 場

 厳冬期でも、日本海側の海岸には、北西の季節風で数多くの漂着物が打ちあがります。そんなわけで大雪でもなければついつい歩きたくなります。こんな季節に便利なのがゴアテックスのマウンテンパーカです。ちょっとした小雨でも平気ですし、歩いて温まればジッパーを開き体温調節もできます。この時季忘れてはならないのが手袋と毛糸の帽子!そしてマスクもあれば、向かい風のときは助かります。

 

 

ビーチコーミングに便利な持ち物

 上に載せたものは、いつもわたしのメッセンジャーバッグに入っているものです。ただこれは使う人や時季によって変化し、渡り鳥の季節には小型の双眼鏡が加わりますし、調査によっては巻尺をもっていくこともあります。夏場などは着替えを持っていくと、さっぱりして帰ることができます。腕時計はコンパスのあるSuunto-Vectorを使っていましたが、最近ではFreestyleのShark Tideというタイドグラフのついたデジタル時計も愛用しています。世界各地のサーフポイントに設定できるので、夏は伊良湖岬、冬は舞鶴に設定して使っています。

 

見つけた漂着物の楽しみ方

 持ち帰った漂着物は早めに処理しましょう。まずはバケツに入れて水に漬け、塩分を抜いておきましょう。貝殻などは水洗いでOKですが、気になる人は塩素系の漂白剤を少し入れるとよいでしょう。長く海中にあった陶片、磁器は1日もつければ十分ですが、陶器の場合には1週間ほど漬けておいても、乾いてから塩を吹くこともあります。

 乾かした漂着物は標本やコレクションにもできます。その場合、採集場所、採集日時、和名などのラベルをつけておきましょう。 またクラフトの素材に使いステキな作品作りも楽しいですね。

 

漂着物のスケッチ

 私は漂着物をスケッチして楽しんでいます。スケッチをすることで漂着物と対峙し、じっくり向き合うことで、漂着物への理解が深まる気がするからです。

 

 スケッチには様々な方法がありますが、ペンによる線描と点描を使った例を紹介します。ここに紹介した作例はペン画をスキャンし、それにフォトショップでバックグラウンドなどに彩色を施したものです。

 

 ここに示したペン画は、ほぼ実物大で描いています。点描は、画面に打つ点の数による濃淡で立体感を表現できます。

 

 

オオバンヒザラガイ

 2006年、第6回漂着物学会・北海道大会が「えりも岬」で開催されました。このとき案内いただいた北海道の会員の方と一緒にえりもの浜に降りました。浜にゴロゴロ転がっていたオオバンヒザラガイ、二つ持ち帰りました。学会の懇親会、なんとこのオオバンヒザラガイの軟体部が食事で出たのには驚きました。味は・・・生臭いゴムのような食感で、決して美味いものではありませんでしたが、印象に残りました。帰宅後、ひとつはアルコール付けの標本に、もうひとつは茹でて殻板を取り外しスケッチしました。

 

 

青いクラゲの干物

 初夏になると黒潮に乗ってギンカクラゲ、カツオノエボシ、カツオノカンムリといった青いクラゲがやってきます。これらの浮遊性のクラゲは、ルリガイなどの青い貝類をさがす指標にもなります。そしてルリガイなどが青いのは、こうした青いクラゲを餌にしているからで、こうしたクラゲたちと一緒に群体を作り、成長しながら海面を浮遊しています。日本海側へは夏以降、晩秋にかけての漂着が知られています。

 カツオノエボシとカツオノカンムリは上手に乾燥させるとしばらくは青っぽい色を見ることができますし、およそ半年ほどはシアンの痕跡?を見ることもできますよ。

 

 

ホネ骨ほね

 ビーチコーミングをしていると、様々な動物の死体を見ることがあります。中でも目立つのは鳥類です。海鳥もあれば水辺の鳥も多く漂着します。上はチュウサギです。

 

 

 

 アビの仲間は、バードウォッチングでは望遠鏡で見ているだけの鳥でしたが、ビーチコーミングをすると、時折目にします。中でもオオハム、シロエリオオハムはよく見かけるものです。そして海が荒れた後では漂着死体を見つけることも珍しいことではありません。生物の死体を見る機会の少ない町とは違い、よく見かける浜辺はやはり異界ですね。

 

 

 コアホウドリは海が荒れた後に漂着することが多く、これまでに渥美半島の太平洋側でも5個体ほど確認しています。翼を広げた大きさは手を広げたよりも大きく、重さも数キロあります。こうした大物は、博物館と親しい人にお願いして、豊橋市立自然史博物館や福井市自然博物館などに収蔵してもらっています。

貝類

 ウズラミヤシロ 貝は、浜辺に落ちている軟体動物の遺骸の中でも、炭酸カルシウムで作られており、色、形、模様の美しさもあるため、誰しも喜んでてにとることのできる「ホネ」ですね。(笑) つやもあり完全な貝は美しいものですが、こうした欠けたり、割れたり、磨耗してしまった貝にも美しさが宿っているように感じるのは私だけでしょうか?

 

 

 イトマキヒタチオビは深場の貝で、浜辺での打ち上げはそんなに多くはありません。ところが福井県の浜辺ではいくつか拾い上げています。深場の貝が見つかるのは漁労屑で捨てられたものが打ちあがる可能性もあります。けれども福井で見た例に興味深いものがありました。それはイトマキヒタチオビにヤドカリが入ったままの打ち上げを見つけたのです。このことから、深場にあったイトマキヒタチオビの殻がヤドカリによって浜辺まで運ばれたと言う仮説を立ててみました。

 

 

 ハイガイ かっては、この貝殻を焼き、石灰を作ったことなどからハイガイ(灰貝)と呼ばれるようになったフネガイの仲間です。フネガイの仲間でも殻は非常に分厚くて重いものです。愛知県の伊勢湾では絶滅してしまいましたが、大昔の貝殻を今でも拾うことができます。また伊勢湾周辺の貝塚でも多量に出土します。

 

 

漂着植物

 アツミモダマ Entada rheedii ジャックと豆の木のモデルにもなったモダマは、1m近くにもなる巨大な鞘に大きな豆を実らせます。ビーチコーミングをしていて、うれしいことの一つにモダマを見つけることがあります。暖かい地方では、モダマの豆に傷をつけ発芽しやすくして育てている人もいます。

 

 

 サキシマスオウノキは沖縄などにもあるマングローブ植物で、樹木の根に近い部分が板のようになる板根が知られています。この実の形はウルトラマンの顔の形にそっくりで、ウルトラマンの原作者の一人が沖縄出身だったこともあり、ウルトラマンの顔のモデルになったのでは?という都市伝説がビーチコーマーの間で囁かれたことがありました。

 ミフクラギも沖縄にある植物で、この樹液が目に入ると炎症を起こし、目が腫れることから、ミフクラギと呼ばれるようになりました。

 

 

フィールドスケッチ

 わたしはビーチコーミングの時には必ずフィールドノートを持ち歩き、漂着物や浜辺の様子などをメモしています。ノートはモレスキンの無地を使います。自然観察のガイドブックなどでは、フィールドノートには鉛筆やボールペンなど耐水性のあるものを薦められることが多いのですが、私は使い慣れた万年筆を使います。雨に濡れることなど心配される方もみえますが、雨降りの中ではメモとりませんから。(笑)

 

 みなさんも自分のお気に入りのノートや筆記具で、フィールドノートを使われてはいかがでしょうか?普段は万年筆ですが旅に出るときなどは色鉛筆も持ち歩き、時間の合間に彩色することもありますよ。

 

 漂着物学会・初代会長の石井先生はいつも・・・「記憶より記録!」って言われてましたから、自称一番弟子のオレは忠実に守って、いつも書き続けています。(笑)