海豆 Sea-beans

 

 はるか数千キロ離れた南国から、海流に乗ってやってきたマメ科などの植物の、大きなタネである「海豆」を見つけると、つい顔がほころんでしまうのは、オレだけでしょうか?

 海流を乗り継ぎ、さまざまな付着生物にくっつかれたりして旅を続けてきた海豆たち。タイミングよく海から陸に向かって吹く風にめぐり合うと、岸近くまで寄ってきて、漂着することがあります。

 漂着海豆の増加には、東南アジアでの洪水と言った災害が影響していたり、地球温暖化による海水面の上昇で、東南アジア各国で浜辺の侵食が進み、種子類が流出しやすくなっていることが指摘されています。

 モダマは、古くは江戸時代からも漂着が記録に残っており、珍奇なものとして知られていましたので、見つけて喜ぶのにもそんな流れがあるのでしょうね。

 

 

 

 モダマ類

1 コバモダマ Entada parvifolia

 漂着モダマの中で最も小さく、ツヤがあります。

2 ヒメモダマ Entada phaseoloides

 縁にエッジがあり、中央部が凸になります。

3 タイワンモダマ  (アツミモダマ)

 Entada rheedei全体的に厚みが変わらず、円形に近い。本州への漂着は最も多い種類です。

4 モダマ Entada tonkinensis

 長円形が多く、表面には網目模様が目立ちます。

 これらのモダマ類は太平洋側でも日本海側でも漂着を確認しています。このほかにEntada gigasに類似したモダマも漂着しているが、はっ

                             きり同定はできていません。

 

 

コバモダマ Entada parvifolia  直径1.5~2cmほど

 形状はアツミモダマに酷似しているが、はるかに小さく、ツヤがあります。

 以前はドロップモダマと呼ばれていました。

 写真左がコバモダマで、右がチョコモダマと呼ばれているもの。チョコモダマの詳細は分かっていません。

 

 マルミワニグチモダマ Mucuna sloanei  直径2.5cmほど

 通称・ハンバーガーマメとも呼ばれるクズモダマ類で、太いバンドが特徴です。

 漂着数は多くないので、拾えるとうれしい海豆の一つです。

 形状は円形に近く、厚みもあるのでやや扁平な球のイメージとなります。

 また表面には細かな凹凸のある梨地模様が見られます。

 

 ワニグチモダマ Mucuna gigantea  直径2.5cmほど

 クズモダマ類では最も漂着数が多い種類です。

 ヘソ部分は狭く、縁よりも僅かに凹んでいます。

 形状は角の落ちたDシェイプをしており、扁平です。

 色のバリエーションは大きく、写真は無地のものです。

 日本では八重山諸島で開花や結実が確認されています。

 

 

 ワニグチモダマ Mucuna gigantea  直径2.5cmほど

 クズモダマ類では最も漂着数が多く、ヘソ部分は狭く、縁よりも僅かに凹んでいます。

 形状は角の落ちたDシェイプをしており、扁平です。

 写真はアニマル柄です。

 日本では八重山諸島で開花や結実が確認されています。

 

 

 イルカンダ Mucuna macrocarpa  直径2.5cmほど

 以前は浮かないので漂着しないと言われてきたクズモダマ類です。

 ヘソ部分は太く、縁よりも僅かに凸型になっています。

 形状は丸いものがあったり、長円形もあり、扁平で中央が凹んでいることもあります。

 漂着している豆の色は黒色が多いのですが、紫外線の影響でしょうか。

 日本では八重山諸島で開花や結実が確認されています。

 

クズモダマ類のヘソ比べ (笑)

 

 左・マルミワニグチモダマ Mucuna sloanei

 中・ワニグチモダマ Mucuna gigantea

 右・イルカンダ Mucuna macrocarpa

 

ワニグチモダマは凹んでいるが、他は飛び出しています。また、マルミワニグチモダマは非常に分厚く、丸っこいですね。


 2020年に出版された「Revisiting the taxonomy of Dioclea and related genera (Leguminosae, Papilionoideae), with new generic circumscriptions de Queiroz, Luciano Paganucci; Snak, Cristiane」では分子系統学に基づいた研究により、これまでジオクレア属とされていたものの多くがマクロサイカンサス属(Macropsychanthus)とされました。これにより、これまで日本に漂着していた外周に沿ったベルトが外周の4/5ほどを占めていたジオクレア属はマクロサイカンサス属になりました。
 以下にあるマイクロサイカンサス属の写真に使われたスケールバーは1㎝です。また写真はクリックすると少し拡大できます。

マクロサイカンサス・ヘキサンダー 

Macropsychanthus hexander

 日本に漂着するジオクレア類の8割以上を占めている。

D型のシルエットで、扁平となり、表面には火炎模様(鹿角模様)が目立ちます。


マクロサイカンサス・ウィルソニー

Macropsychanthus wilsonii

  D型のシルエットを持つが厚みのある種子となる。

ベルトは2∼3㎜の幅で中央に淡色の中央線が目立ちます。

 


マクロサイカンサス・コモサス

Macropsychanthus comosus

円形に近いシルエットで、厚みもあるために偏球形となる。暗色のベルトは突出している。これまでチーズバーガー豆や、どら焼き豆とも言われてきました。

 


マクロサイカンサス・フェルギネウス

Macropsychanthus ferrugineus

円形のシルエットを持ち、厚みもあって球形に近い。ベルトは外周の6∼6.5割で突出しない。

*本種は右側のサンプルで、左は比較に用いたMacropsychanthus sp.


マクロサイカンサス・”マーブル”

Macropsychanthus "marble"

D型をしており、表面は平滑で光沢も強い。色にはオレンジからマゼンタへとバリエーションがあり、退色すると彩度が落ち、茶色みがかる。


マクロサイカンサス・ジャワニクス

Macropsychanthus javanicus

シルエットには変異が多く、ベルトもよじれており、中央には淡色で細い中央線がある。

色はやや赤みを帯びた黒色でツヤもある。


海豆の分類は非常に難しいものです。種子だけによる判別は形状色彩などを考慮していますが、疑問な個所もあります。今回、漂着物学会誌20号に中西先生の報告が出ましたので、それに従って分類してみました。何かお気づきのことなどあれば、ぜひお知らせください。

 マクロサイカンサス属のヘソ比べ 

 

 マメ科マクロサイカンサス属の海豆では、さまざまなバリエーションがありますが、へその中央は細いラインになっています。

 左・M.wilsonii、中・M.javanicus、右・M."marble"

 ここに載せたマクロサイカンサスのヘソは、くねっていたり、ゆがんでいることが多くなっています。

 

 

 タシロマメ属  Intsia

 マメ科の植物で、熱帯から亜熱帯にかけて広く分布するマメ科の常緑高木です。

 Intsia属の種子は形の変異も多く、サイズも扁平なモダマに近いような大型のタイプと、ワニグチモダマほどの小型のタイプがあり、これらは異なった種と思われます。またIntsia属の種子はヘソを上にして、表面に並行に走る線が特徴ですが、種子が乾燥するにつれ目立たなくなります。

 

 

タシロマメ  Intsia bijuga  直径2cmほど

 

海岸や低地に生える常緑高木で、高さは30mほどにも及ぶが、シロアリに強い用材として伐採され、現在その数は激減しているそうです。シロヨナとも呼ばれ、国内では西表島や石垣島に見られます。種子は非常に扁平で、種子の厚さは1㎝に満たないものがほとんどです。マラヤタシロマメに比べ、色は黒っぽいのも特徴です。

マラヤタシロマメ(仮称) Intsia palembanica  直径3∼4㎝ほど

 

 日本に漂着するIntsia属の中では大きめで、鞘の中で両側から押しつぶされたモダマ類のようなサイズのモノが見られます。これがマラヤタシロマメで、種子の厚さは1.5㎝ほどにもなることがあります。

 Intsia palembanicaは、2019年にマレーシアの国の木と認定されました。用材としても名高いこの木は、ボルネオチーク、マラッカチークなどと用材名でも呼ばれています。

 ギガシフォン  Gigasiphone schlechteri  直径3~4cmほど

 マメ科の植物で、東南アジアに分布しており、ニュージーランドやパプアニューギニアにも漂着している。

 この豆の特徴は、V字型のヘソで、前にはVモダマとよばれたりもした。この特徴は九州や沖縄地方にも産するハカマカズラの豆にも見られるので、ハカマカズラとの関係性も興味深いものです。

 

 これまで漂着は南西諸島や奄美大島からの報告だけでしたが、近年になり愛知、福井、千葉からも報告されています。

 

 シロツブ  Caesalpinia bonduc  直径1~1.5cmほど

 マメ科ジャケツイバラ属の植物で、八重山地方には自生しています。

 形状はさまざまで、成長の様子で両側から押されたりして形が変わるようです。

 表面は非常に硬くて、弱い年輪状の模様が見られます。

 与那国島産の鞘を触ったことがありますが、無数の棘で覆われていて、ここまでして豆を守ろうとする植物の戦略に驚きました。


 ハスノミカズラ  Caesalpinia major  直径1~1.5cmほど

 マメ科ジャケツイバラ属の植物で、沖縄以南には自生しています。

 形状はシロツブよりも整っていて、異型が少ない。

 表面は非常に硬くて、シロツブよりももっと弱い年輪状の模様が微かに見られます。

 シロツブに比べて色がもっと白っぽく、豆を振ったときにシロツブと違い、カラカラ音がする割合が少ない。写真右がハスノミカズラ、左がシロツブ。

 デカツブ(仮称) Caesalpinia solomonensis と、シロツブCaesalpinia bonducとの違い

この2種を見間違えることはまず無いと思いますが、相違点をかいておきます。

〇サイズが大きく違います。これは間違えようがないでしょう。

〇シロツブは偏球形ですが。デカツブは扁平になっています。

〇どちらもヘソを上にした場合、水平方向に細かな線が並びますが、これがデカツブの方がハッキリしています。solomonensis学名は伍淑惠さんから教えていただきました。

ナタマメ類とデイゴ  直径1~1.5cmほど

 左・ナガミハマナタマメ Canavalia rosea ヘソがハマナタマメよりも短い(身が長いということでこの名前がつきました)

 中・ハマナタマメ Canavalia lineata 日本海側でも夏に発芽は多い。渥美半島先端で自生しています。

 右・デイゴ Erythrina variegata ハマナタマメに比べてヘソが短く凹んでいます。

 

 

リトル・マーブル

左・ストロンギロドン Strongylodon Lucides

 ポリネシア原産で、周囲の熱帯雨林や低地の川沿いに分布する蔓性のマメ科植物で、高い位置まで蔓を伸ばす。写真は渥美半島表浜、田原市に漂着したもの。

右・オキシリンクス Oxyrhynchus trinervis

 メキシコ南部からコロンビア西部にかけての中南米地域に分布する蔓性のマメ科植物で、高い位置まで蔓を伸ばす。写真は池間島に漂着したもの。

 



マリアマメ Merrrmia discoidesperma

 ヒルガオ科のマリアマメは、メキシコ南部からコスタリカあたりの中米に分布しています。太平洋側に流出した種子は、北赤道海流で西へと太平洋を渡り、黒潮に乗り継いで北上し、台湾・琉球近海を通り抜け、愛知県の渥美半島に漂着しました。2019年9月21日は、マリアマメ記念日となりましたよ。2019年の夏から秋にかけマリアマメは沖縄県、高知県でも確認されています。

 大好きな海豆が拾えるとついうれしくなってしまいます。持ち帰ってきれいに洗い、乾かして、絵も描いてしまいました。幸運な時には、福井の浜辺を一日歩き回り、これだけ拾うことができましたが、そんな幸運はそうあるものではありませんね。2012年の夏、渥美半島では空前の海豆まつり、浜を歩いてモダマの拾えない日はありませんでした。10月初旬まで続いた海豆まつりでしたが、11月に入れば福井も同様に!海豆まつり!そして海豆だけではなく、アカウミガメの幼体まつり!もう、この先こんなコトは、そうそう無いでしょうね。

果実・種子 Fruits

 ビーチコーマーに人気がある植物系の漂着物では、海豆が一番人気です。人気の秘密は珍しさだけではなく、保管に場所をとらないサイズであることも大きいのでしょう。

 ただ、明治時代に柳田國男が伊良湖岬に逗留したおり、浜辺で拾い上げたココヤシの話をもとに、島崎藤村が作った「椰子の実」が広く知られてきたように、大きなココヤシなどは遠来のモノとして、ロマンをもって語られています。そんな南方由来の果実・種子を紹介します。

ココヤシ Cocos nucifera  直径20cmほど

 

 世界中の熱帯で栽培されており、その高さは30mを超すこともあります。ココヤシの実の浮力は非常に高く、各地の海岸に漂着し目立つ存在です。福井県若狭町にある鳥浜貝塚からは縄文人が加工したココヤシが産出しており、古代人と漂着物との関わりを知ることができます。ココヤシのコレクターは福岡にお住まいだった石井忠先生で、古賀で漂着物学会が開かれたおりに展示された数百にも及ぶココヤシの量には圧倒されました。

ニッパヤシ Nypa fruticans  直径7~12cmほど

 

 世界中の熱帯から亜熱帯にかけてのマングローブに生える代表的なヤシ。日本では西表島などに自生しています。

 ニッパヤシの葉を用いた屋根は、風雨に強く風通しが良いので、台風が多く湿度が高い熱帯アジアで使われています。

 実は未熟果を東南アジアでデザートなどの食用にするそうです。

 

ビンロウ Areca catechu  直径2~3cmほど

 

 太平洋・アジアおよび東アフリカの一部で見られるヤシ科の植物。

 中国語では檳榔(びんろう)と書く。種子は嗜好品として、噛みタバコに似た使われ方をされ、実に石灰をまぜたものが俗にいうビンロウとなります。

 写真は、2012年の大量漂着時に渥美半島表浜に漂着したビンロウ。同年から翌年にかけ、日本海側でもビンロウの漂着が確認されました。

ソテツ Cycas revoluta  径4~6cmほど

 

 ソテツは、裸子植物ソテツ科の常緑低木。

 日本では沖縄や奄美諸島などで、飢饉の際に実や幹などからでんぷんが採集されたようだが、属名でも分かるようにサイカイシンを含むため毒です。各地に植栽されているので、漂着の起源ははっきりしないが、愛知、福井どちらにも漂着し、若狭町の常神半島の先には、ソテツの巨木があます。

 

 アクロコミア属の一種 Acromia spp

 

 Pricky palm ともいわれるアレカ椰子の仲間で、分布はメキシコ、中南米、などの亜熱低地域のもので、河川から海に流出し、海流によって渥美半島に届いたもの。海流に乗り、北西ヨーロッパ方面での漂着は知られている。

 内果皮の特徴は、球形に近い中央部外周に3個の小穴がほぼ均等な間隔でみられることです。


アブラギリ類  Vernicia属 Aleurites

 トウダイグサ科の樹木で、灯油をとる目的で栽培されたものが多い。

写真左から  ククイ Aleurites moluccanus  長径3cmほど、シナアブラギリ Vernicia fordii  長径2cmほど(縦長タイプ)、オオアブラギリ(シナアブラギリ)Vernicia fordii  長径2cmほど(円形タイプ) シナアブラギリは、南方系植物漂着の指標にもなります。  ククイはそれらに比べ、出現頻度は低くなります。これまで右端の種子をカントンアブラギリとしてきましたが、シナアブラギリの形態的なバリエーションでした。

 

 

アブラギリ Vernicia cordata  直径3cmほど

 

 日本に自生しているアブラギリで、写真の果実の中に丸っこい種子が6~8個ほど入っています。

 アブラギリの種子は、日本海側でも、太平洋側でも漂着を確認していますが、果実は圧倒的に福井県の若狭地方で多く見つかります。

 それはかって若狭地方でアブラギリが栽培され桐油が採取されていた名残で、若狭町には今でも多くの自生が見られます。

アブラギリ類  Omphalea属

写真左から  

ジャマイカアブラギリ Omphalea diandra 直径3cmほど

パプアアブラギリ Omphalea papuana 直径3cmほど

 ジャマイカアブラギリは、福井県で漂着が確認されています。

 パプアアブラギリは、福井県と愛知県とで漂着が確認されています。

 

  ●漂着物学会の短報PDF

オヒルギ Bruguiera gymnorhiza 長さ20㎝ほど

 ヒルギ科オヒルギ属のマングローブ樹種のひとつ。別名アカバナヒルギ。奄美大島が日本では分布の北限となっている。

 オヒルギの種子は胎生で、果実の落下前に枝上で発芽している。

 漂着したオヒルギの果実は全長20㎝ほど、最も太い部分で1.6㎝ほどであった。

ゴバンノアシ Barringtonia asiatica  直径3~15cmほど

 

 サガリバナ科のゴバンノアシは、インド洋から太平洋にかけての熱帯や亜熱帯に分布し、日本でも八重山地方に分布しています。

 果実には4稜や5稜のものがあり、碁盤のアシに似ているところからこの名前がつけられました。写真は左が4稜、右が5稜。

 実には魚毒性があると言われ「毒流し漁」に用いられたこともあるそうです。また果実の浮力を用いて浮きに使われたこともあります。

サガリバナ Barringtonia racemosa  径3~5cmほど

 

 サガリバナ科の常緑高木で、東南アジア一帯の熱帯・亜熱帯に分布し、日本では奄美大島以南の南西諸島に自生しています。

 マングローブの後背地や川沿いの湿地帯に生育し、白い花が美しい。

 浮力はゴバンノアシに比べて低く、中部地方への漂着は渥美半島へ2012年と2015年との2回と非常に稀でした。ところが、その後増加し、2020年以降は毎年いくつかの漂着を確認しています。

 

 

ミフクラギ Cerbera manghas  径3~7cmほど

 

 熱帯から亜熱帯に生育するキョウチクトウ科の常緑亜高木。別名オキナワキョウチクトウ(沖縄夾竹桃)。

 白い乳液は有毒で、皮膚についても炎症をおこすようですし、特に目に触れると酷く腫れることから、目脹ら木・・・ミフクラギの和名がつきました。

 写真はエージングの異なる漂着ミフクラギ。

 

モモタマナ Terminalia catappa   長径4~6cmほど

 

 シクンシ科の樹木で、太平洋諸島などに広く分布する。葉が大きく、枝振りが美しいので植栽されることが多くあります。

 日本でも南西諸島で街路樹に使われており、冬に訪れると樹下はモモタマナの実がたくさん落下したままになっています。かなり多くの果実が実ることからも、漂着数の多さがうかがえます。コバテイシとも呼ばれるが、これは沖縄の方言をもとにしたものです。

テリハボク Calophyllum inophyllum  直径2~3cmほど

 

 テリハボク科の常緑高木で高さは10mを超す。太平洋諸島、オーストラリア、東南アジア、インド、マダガスカルなどの海岸近くに分布し、また世界の熱帯・亜熱帯で広く栽培される。日本では南西諸島と小笠原にも分布しています。漂着果実は球形で表面は木質で硬いが、割ってみるとこげ茶色のコルク質部分があります。写真の右上はエージングが進んでいないもの。エージングが進むと、虫食い上の連続した穴があきます。

パンギ Pangium edule  長径4~6cmほど

 

 アカリア科の東南アジアから南太平洋諸島にかけて分布する熱帯植物であり、その種子にはシアン化合物が含まれている。バリ島では、この実の殻をいくつか棒の先に結わえ付け、振って音を出すマラカスの一種として土産物が作られています。

 漂着した種子は表面に血管模様が目立ち、愛知と福井で確認しています。

アダン Pandanus odoratissimus  長径3~4cmほど

 

 タコノキ科タコノキ属の常緑小高木。

 亜熱帯から熱帯の海岸近くに生育し、非常に密集した群落を作ります。

 日本でも奄美諸島以南に分布しています。

 未熟な果実の表面は柔らかく、かじるとやや甘いが、漂着したアダンは木質で硬い外側と、繊維質になった内側との質感のコントラストが目立ちます。

 

サキシマスオウノキ Heritiera littoralis  長径4~6cmほど

 

 アオイ科の常緑高木で、南西諸島の分布地では、板根を発達させる木として知られています。

 偏球形の果実は、中央の片側にリッジがあり、ウルトラマンのマスクにそっくりなために、ウルトラマンのモデルになったのでは・・・との都市伝説ができました。漂着果実は、長いタイプと、短いタイプとがあり、写真は短いタイプで、国内に分布しているサキシマスオウノキはこのタイプが多くあります。

ハスノハギリ Hernandia sonora  直径1~1.5cmほど

 

 西インドが原産のハスノハギリ科の常緑高木で、耐潮性に優れているため、世界各地の熱帯の海岸に広く植栽されています。

 日本でも奄美大島以南に分布し、珍しい植物ではありません。 

 中部地方での種子の漂着は、愛知県の表浜や福井県で確認しているが、そんなに多くはありません。球形の黒い種子には、淡色のリッジが見られます。

 

ホウガンヒルギ Xylocarpus granatum  長径4~6cmほど

 

 マングローブに生えるセンダン科の植物で、ソフトボール大の球形をした実をつけます。その実が熟すと割れて、いくつかに分かれて落下しそれが漂流します。

  渥美半島表浜や福井沿岸に漂着するホウガンヒルギのほとんどは、ボロウチワフナクイムシ Uperotus clavaに侵食されており、まともな果実は多くありません。

 

ハテルマギリ Guettarda speciosa   直径2~4cmほど

 

 熱帯から亜熱帯にかけての広範囲に分布する、アカネ科の常緑小高木で、和名は波照間島に由来しています。

 果実はややつぶれた球形。内果皮は繊維質が多いが、コルク質の部分も多いため水に浮き、海流散布されます。

 愛知県の表浜海岸で、漂着を確認しています。

インドカリン属 Pterocarpus sp.  長径4cmほど

 

 マメ科のインドカリン属は、熱帯から亜熱帯にかけての広範囲に分布しています。

 材はパドック、ナーラ、ブロッドウッドなどと呼ばれ、硬く木目が美しいので、ローズウッドなどと同様に装飾として用いられています。

 写真は2012年の大量漂着時に、1つだけ渥美半島表浜で見つけたものです。

 オニガシ Lithocarpus lepidocarpus  直径2~3cmほど

 

 台湾固有の常緑ブナ科マテバシイ属の植物で、主に台湾中部から南部にかけての標高 1000∼2300 m ほどの山地に生育しています。8∼12 月にかけて、長径2~3cmほどの殻斗をつけます。

 漂着したオニガシのどんぐりは木質でかなり皮も分厚く、最初は驚きました。

 愛知県の表浜海岸で、漂着を確認しています。

リュウガン Dimocarpus longan  直径1cmほど

 

 ムクロジ科常緑高木で、台湾、中国南部、東南アジアに分布し、日本でも八重山の一部に分布しています

 リュウガンの実は、果肉をデザートなどに用いることがあるようです。

 リュウガンの漂着はあまり多くなく、浮力はそれほど高くないと思われます。

 台湾や上海の町では街路樹として植えられているようです。

 

パラゴム Hevea brasiliensis  長径2~3cmほど

 

 アマゾン原産のトウダイグサ科の常緑高木だが、今では東南アジア各国で植栽が進んでいます。

 漂着はごく稀で、2012年の大量漂着時と、2015年夏に愛知県渥美半島の表浜海岸で漂着を見ています。

 漂着種子は黒色となり、新鮮な実の表面にある模様は見られません。

バンレイシ・シャカトウ Annona squamosa  直径3~7cmほど

 

 原産地は中南米だが、フィリッピン、タイ、ベトナム、台湾、中国と言った東南アジアでも栽培されています。

 シャカトウの名は、釈迦頭で、果実の表面をお釈迦さんの羅髪に見立てて付けられたものでしょう。

 漂着する果実は、大きさなどから未熟果が落下したものと思われます。

 

 

オオミカンラン Canarium mehenbethune 長径6㎝ほど

 

 カンラン科、カナリウム属の植物で、東南アジアや、太平洋諸島には広く分布し、およそ100種類のカナリウム属の植物がある。

 

 これまで国内でのオオミカンランの漂着は八重山諸島の石垣島で確認されており、写真の標本は、福井県高浜町に漂着したもの。

 

 

 

グンバイヒルガオ Ipomoea pes-caprae  長径1cmほど

 

 グンバイヒルガオは、各地で発芽が見られ、特徴的な相撲の軍配型をした葉が目立つので、浜で見かけるのは発芽後がほとんどで、漂着種子を見つけた人は極めて少ないのでしょうね。もちろん、オレも見つけていません。 福井のビーチコーマー・のぶさんは発芽したグンバイヒルガオを持ち帰り、家で花まで咲かせた人なので、その種子を知ってみえたのでしょう。数年前のビーチコーミング講座の折、漂着種子を浜で見つけられたのには驚きました。

マンゴー Mangifera indica  全長7~12cmほど

 

 ウルシ科マンゴー属の果樹で栽培は古く、紀元前のインドと言われている。また仏教では、聖なる樹とされています。

 漂着は各地でありますが、日本でも普通に店頭に並ぶようになり、南方からの漂着かは不明でです。

 

パラミツ Artocarpus  長径25cmほど

 

 クワ科パンノキ属の果樹で、東南アジアを中心に栽培されています。

 2014年1月、石川県加賀市の海岸で、砂丘の上に半分埋もれるようにしてこの果実があった。掘り出すと、埋もれていた面は柔らかく、持ち上げたら果実は指の形に凹みました。漂着物事典にあったコパラミツと瞬時に思ったが、調べてみると、コパラミツかパラミツかは、識別できなかった。漂着は稀で、一度しかみていない。

マンゴスチン  Garcinia mangostana 径6cmほど

 

 果物の女王といわれるマンゴスチンは、ビーチコーミング仲間が一度送ってくれたので喰う機会を得ました。ただ、酸味のある果物が好きなオレにとっては、そんなに美味いものではありませんでした。(笑)

 なんでも19世紀、大英帝国のビクトリア女王は、「わが領土内にマンゴスチンがあるのに、これが食べられないのはけしからん!」と言ったとか言わなかったとか?今ではタイなどで作られ、生も冷凍でも手に入ります。漂着するマンゴスチンはここ10年ほどで増えているように思います。果物はあんなに柔らかいのに、どうして木質のような硬い漂着果実になるのかは不思議ですね。

ドリアン  Durio zibethinus径6cmほど

 

 果物の女王がマンゴスチンなら、王様はドリアンと言われています。

 マレー半島が原産と言われるドリアンですが、その臭いが強烈なのはよく知られたところですね。オレも一度だけ喰う機会を得ましたが、都市ガスの臭いのようなアレを嗅いでノックアウトされました。表浜で二度ほどドリアンの果皮を見ていますが、もう臭いはありませんでした。

マンシュウグルミ Juglans mandshurica  直径3~6cmほど

 

 オニグルミは日本各地に分布する野生のクルミで、栽培されているものではありません。ただ学名はJuglans mandshurica var. sachalinensis と、亜種のような扱いになっています。

 日本の沿岸に漂着するクルミには写真右のオニグルミがほとんどですが、それに混じって写真左のマンシュウグルミが漂着します。マンシュウグルミは表面の彫りが深いので、オニグルミとは区別できます。

ハマユウ・ハマオモト Crinum asiaticum 直径3~5cmほど

 

 ヒガンバナの仲間のハマユウは、花を咲かせた後にたこ焼きサイズの種子を付けます。この種子が実ったころには、重さで茎が倒れ、種子は落下します。

 種子はコルク質で被われており、浮力も高く、海に流れ出しても漂流することができ、海流散布される「黒潮の子」と言えるでしょう。

 写真の種子は夏の終わりに渥美半島表浜で拾ったものですが、サンプル袋に密封しておいたら、冬に芽が出てきました。すごい生命力ですね。

ヒシ Trapa natans 全長3~5cmほど

 

 ヒシは、日本をはじめ、中国、台湾などに分布する水草で、水面に浮きます。この種子は非常に硬い木質で、4個の棘があります。池の水面に浮いているので、水位が上がってオーバーフローしたときなどには、川へ流れ落ち、それらが漂着するのでしょう。

 忍者が「まきびし」として、逃げるときなどに使った忍具は、ヒシの実であったとか、この形を模して作られたものと聞いたことがあります。

 

 

 

 ムクロジは秋から初冬にかけて浜辺に漂着することがあります。

 そのほとんどは果肉に包まれた状態ですが、タネは中でカラカラと音を立てるようになって、動ける状態です。

 ムクロジの果肉はサポニンを含み、アジアでは石鹸代わりに使われることがあります。また黒くて硬いタネは、羽根つきの羽のおもりとして、使われていました。

 

 ひょん笛は、イスノキ Distylium racemosumについた虫(イスオオムネアブラムシ)が作った虫こぶです。この虫こぶをひょんの実と呼び、大きくなり、成熟すると表面が硬く、内部が空洞になるので、出入り口の穴に唇を当てて吹くとヒュー、ヒューと鳴る笛になります。私が子供のころは、競い合って虫こぶを取って遊んだものですが、時折浜辺でも見られます。