海は無脊椎動物の宝庫です。
クラゲ、エビ、カニ、ヤドカリ、シャコ、カブトガニ、イカ・タコ、フジツボ、エボシガイ、ヒトデ、ウミユリ、ウニ、ブンブク、ナマコ、ホヤ、カイメン、サンゴ、コケムシ、腕足類などなど、様々な無脊椎動物が棲んでいます。
それだけではなく、陸の無脊椎動物も漂着物には混じっているために、満潮線に沿った打ち上げラインには、驚くほどの多様性を持った無脊椎動物群が見られます。
ギンカクラゲ Porpita porpita 円盤の直径0.5~6cm
ギンカクラゲの由来は、青い触手がエージングで劣化して、真ん中の白い円盤状のものだけになって漂着することも多く、これを銀貨に例えたものです。ただこの円盤は、銀貨と言うよりも、切り干し大根や牛乳キャップに見えます。左の写真の欠けている部分は、天敵のルリガイなどのアサガオガイ科の貝に喰われたものでしょう。
カツオノカンムリ Velella velella 円盤の長径0.5~6cm
カツオノカンムリは暖海・外洋性で、黒潮海域に生息する。しばしばカツオの群れと一緒に見つかるのでこの名がつけられたようです。
透明で長円形の円盤周囲は青い触手に被われ、その上に丸みを帯びた三角形の帆を持ち、風に乗って移動するようです。長円形の円盤と帆は、円盤を縦に置いた場合、垂直よりも少し左右に傾いています。新編日本動物図鑑によれば、「長軸を立てて見た場合、帆部が左上から右下に張っているN-W型は北太平洋の北収斂線、右上から左下に張っているS-W型は亜熱帯収斂線に集まる」とあります。カツオノカンムリには微毒があるといわれています。死んだ個体なら大丈夫のようですが、生きた個体では気をつけましょう。
カツオノエボシ Physalia physalis 浮力体長1~15cm
カツオノエボシ科の刺胞動物。非常に強い毒をもち、刺されると電気ショックを受けたかのような強烈な痛みがあることから電気クラゲの別名があります。毒は触手にあるために漂着後も触手に触れるのは危険です。
透明な浮力体には炭酸ガスで満され、パッと見た感じは青い透明な餃子のイメージでした。アサガオガイ科の貝類やアオミノウミウシはカツオノエボシを餌にしており、一緒に持ち帰ったところアオミノウミウシに喰われていました。
エチゼンクラゲ Nemopilema nomurai 傘の直径0.5~2m
傘の直径が1mを超す固体は珍しくない巨大クラゲで、大量発生した年には、定置網の魚網が破れるなど甚大な漁業被害も出ました。
福井では水産高校がエチゼンクラゲ入りのクッキーを売り出したりと、その対処でイロイロあったが、全く見ない年もあります。
黄海あたりで発生し、対馬暖流に乗って北上する途中で成長するとも言われていますが、大きくて大量に漂着すると、浜が臭くてかないません。
アオミノウミウシ Glaucus marginatus 体長1~3cm
太平洋海域の熱帯から温帯で見られる、海面浮遊性のウミウシ。この仲間には大西洋に生息する種もあり大きめです。
タイドプールなどでの漂着は、左の写真のような特徴的な姿をしているので見間違うことはありません。ただ浜に打ち上げられると、体を丸めてしまい、その姿は練り消しゴムの様になります。生命力は強く、練り消し状態の個体を海水で満たしたペットボトルで持ち帰ったら、翌日まで生きていました。
アメフラシと海そうめん Aplysia sp.
大きな海牛の仲間、アメフラシは春になるとまるで中華麺のような卵を産み、それは海そうめんと呼ばれてきました。
ただ卵の色はそうめんではなく、黄色い中華麺だったり、もっとオレンジ色の濃いものもあります。この時期に磯近くにはアメフラシが集合してるので、よく見かけます。
オキナガレガニ Planes cyaneus
海面の流れ藻などの漂流物とともに生活しており、太平洋やインド洋に分布しています。
脚は扁平で、縁には毛も生えており、泳ぐのに適した形をしています。色や模様のバリエーションがあり、左の写真は甲羅上部に白斑があるタイプです。
オキナガレガニは流れ藻や漂流物と旅をするために、カツオノエボシ、カツオノカンムリ、ギンカクラゲと一緒に打ちあがることもあります。
そうした青いクラゲたちと一緒に打ちあがる個体の中には、甲羅やアシも同じような青系の色に染まっているモノがあります。これは青いクラゲを餌にした結果なのでしょうか?
イボショウジンガニ Plagusia tuberculata 左右は7cmほど
漂流物に付着して漂流を続けるカニは、コロンブスクラブとも言われるオキナガレガニがよく知られていますが、イボショウジンガニもよく漂流します。
磯に棲むといわれているイボショウジンガニですが、ココヤシなどに付着する例をたくさん見ています。特に日本海側で漂流するカニなら。こっちの方がよく見られます。写真は標本なので色褪せて、明るくなっています。
キンセンガニ Matuta victor
砂浜に暮らすカニで漂流物として目立つものの一つに、キンセンガニがあります。キンセンガニは砂浜で暮らすために、砂の中に潜るのが得意です。
甲羅の両端には、特徴的な突起(棘)がありますが、ヒレ状の薄っぺらいアシは泳いだり、潜るのに便利なようです。また背甲の表面には網目模様があるが、これは砂に潜れないときのカモフラージュとして役立つのでしょう。
モクズガニ Eriocheir japonica
ビーチコーミングをしていると、7~8㎝ほどの大きなカニの爪を見かけることがあります。そしてその爪の表面が写真のような藻が密生したように見えたり、乾いていれば細かな獣毛が密生しているようならば、その爪の主はモクズガニです。
モクズガニは食用になる蟹で、有名な上海蟹にきわめて近い種なので、美味です。ただ寄生虫の例が多く報告されていますのでしっかり茹でたり、熱を通してから食べた方がよいでしょうね。
モクズガニは、なぜか甲羅に頭文字のMが記されています。
エボシガイ Lepas anatifera 白い殻の部分は3cmほど
エボシガイ類は、エビやカニと同じ仲間で、フジツボと一緒に蔓脚類(まんきゃくるい)と言われています。フジツボ同様に、他の物に付着しますが、柄があるのが大きな特色です。白い貝のように見える部分は、5枚の殻板から成り立っています。
エボシガイ Lepas anatiferaは、柄の部分が長く肉色から暗紫褐色をしており、欧米では、その形状からGoosneck Barnacleと言われています。
カルエボシ Lepas anserifera 白い殻の部分は1~2cmほど
蔓脚類(まんきゃくるい)と言われるエボシガイ類は、エビやカニと同じ仲間なので、乾いた時には、似たような臭いがします。きれいに乾けばよいのですが、腐敗しながら乾くと、もうたまらない臭いとなり、打ち上げ線からかなり離れていても、漂着が確認できます。
エボシガイ類はどれも似たような形態をしていますが、カルエボシはエボシガイに比べ殻板がシャープになっています。また殻板の隙間がオレンジっぽい色に見えますし、エボシガイのような長い首(柄の部分)が見られません。カルエボシの名は、軽石に付着するのが多いことから名づけられたものです。
ルリエボシ Lepas pectinata
ルリガイなどのアサガオガイ科の貝類に付着することの多いエボシガイ類ですが、他の物にも付着し、驚いたことには初夏に漂着するハシボソミズナギドリの羽毛にまで付着していました。付着相手を選ばずオレンジへも付着していました。
オオウスエボシ
Octolasmis weberi
オオウスエボシはヤナギウミエラなどの骨軸に付着するエボシガイでかってはヤナギウスエボシとも言われました。
ヤナギウミエラ Virgularia abies
ウミエラの仲間はソフトコーラルの一つで、砂浜の中に芯の部分が刺さり、上の部分にはポリプがついています。
漂着したものでは上の紫色をしたものが新鮮な個体です。一番下のオレンジ色はオオウスエボシです
カメフジツボ Chelonibia testudinaria
ビーチコーマーが興味を示すフジツボ類はそんなに多くないでしょう。
カメフジツボはウミガメの背中などに付着しますが、付着場所を移動することができるため、ウミガメの背中には移動した痕跡が見られることがあります写真のカメフジツボはアカウミガメの死体近くにあったので、このカメから外れたものでしょう。
イガグリガイ Hydrissa sodalis 写真は直径3cmほど
これはイガグリホンヤドカリ Pagurus constans の巣で、茶色部分はイガグリガイウミヒドラ Hydrissa sodalis の群体です。
ヤドカリは成長に合わせて貝殻を取り替えますが、イガグリホンヤドカリの場合は、成長に合わせて貝殻に付着したイガグリガイウミヒドラも巻貝を作るように成長するため、取り替える必要が無いようです。
漂着するウニたち
ウニと言えば、越前海岸あたりでとれるバフンウニの卵巣は絶品ですが、かなり高いものですね。(笑)
トゲトゲのウニも、棘が落ちてしまえば、こうしたかわいいルックスをしてますので、婦女子の中にはこれを好む方が多いようです。最近では男子でも好む方もいるようですが、オレはあまり興味がありません。(笑)
スカシカシパン Astriclypeus manni 左の写真は直径7cmほど
タレントのしょこたんコト、中川翔子さんが溺愛していたというスカシカシパンは、コンビニで喰えるパンとなって登場したそうですが、そんなお店に行くこともなく、見たこともないのですが、今はどうなっているのでしょうね?
オレの見るスカシカシパンは、もっぱら浜辺でしか見られません。これは石灰質の円盤状の上に五つの細長い穴が空いています。棘皮動物のスカシカシパンはもちろんウニの仲間です。下の写真は直径13cmほどです。
ブンブクチャガマの仲間たち
棘皮動物のブンブクはもちろんウニの仲間、この仲間は五角形が好きでマークは星型というか、大の字型ですね。
海水に晒されて漂着したものは細かな棘も外れ、真っ白になっていますが、生きているときには、下にあるオオブンブクのように毛深いんです。
写真はオカメブンブクとヒラタブンブク(右端)です。
オオブンブク Brissus agassizii 写真は長径10cmほど
若狭湾付近の磯場から細礫浜には、かなり大きくなった写真のようなオオブンブクがいます。写真は大きめのタイプで、棘の落ちた漂着物は、1㎝ほどからあり、真っ白にさらされて漂着することもあります。
オオブンブクは、クモヒトデやイトマキヒトデと一緒に、小さな漁港の脇に捨てられて見つかることがあります。こうしたものは刺し網漁の漁労屑で、時折チェックすると面白いものが見つかります。
とげとげ・・・
ウニやブンブクと言われる仲間は、棘皮動物に分類されていますので、生きているときには、その表面は細かなトゲトゲに覆われていることがほとんどです。漂着する時には、そんな棘が外れてしまっていることも多いのですが、漂着条件が整えば、このように生きている姿のまま漂着することもあります。
ウミシダ類 Comatulida
古くは古生代に生息していたウミユリの仲間だが、ウミユリのような長い茎はなく、上の花だけの部分と思えば間違いありません。
そんなわけで形状からウミシダと呼ばれるのですが、これでも動物で、浅海に生息しています。
ウミアメンボ類 Halobatinae 体長は4mmほど
主に海面に生息するカメムシ亜目の昆虫です。
丸っこい胴体を持ち、三対の脚のうち、前脚は短く、中脚と後脚は重なるように胴体後方に位置して見えます。
海が荒れると、外洋から岸辺に強い風に押されて漂着します。そのためにウミアメンボの採取を試みるならば、波の華が固まっている場所や、漂着したカツオノエボシなどの粘膜に付着したものを探すのが手っ取り早いでしょう。
ウスタビガの繭
ウスタビガは羽を広げると10㎝ほどにもなる蛾の仲間です。
ウスタビガの繭は、冬場になると葉の落ちた雑木林で、鮮やかな黄緑色を目立たせるので、見たことのある人もいるでしょうね。
そんな繭が落下して、河川などから海にやってくることがあります。海と山とが近い若狭地方ではよく見かけます。
甲虫類 Beetles
夏の終わりや秋に浜辺でセミやカメムシなどの昆虫を見かけることがあります。そして意外に見かける機会が多いのが甲虫類です。甲虫の殻はキチン質からできており、化石にも残りやすい丈夫な素材だからです。
カブトムシ、コガネムシ、クワガタムシ、カミキリ、タマムシなどなど、注意すれば多くの昆虫を見ることができますよ。
アサギマダラ Parantica sita
渡りをする蝶として知られたアサギマダラは、時に2500㎞もの渡りをするそうで、これまでに和歌山県から香港までの記録があるそうです。
天敵の鳥を避けて海面近くを渡っていくものが多いようで、波にのまれた個体が漂着することがあります。