浜辺での貝拾いといえば、まさにビーチコーミングの定番!って感じがしますね。
そして貝に関しては、学者並みに詳しいマニアさんの存在が大きいでしょうね。
ここでは、貝類を網羅するわけではなく、漂着する打ち上げ貝ならではの楽しみを紹介できたらと思います。
福井の貝については、福井の打ち上げ貝もご覧ください。
アオイガイ Argonauta argo 直径1~20cmほど
タコ目カイダコ科のアオイガイは、この殻を棲家ではなく、卵を守る揺り篭として作り出します。カイダコには一対の触腕というしゃもじ型をした腕があり、その腕の膜を開いてこの美しい殻を作り出します。
オレがビーチコーミングにはまりこんだ原因を作ったのは、このアオイガイの薄っぺらな白い殻を拾ったことにあります。石井先生の漂着物事典で知ってはいたのですが、冬の日本海で浮き玉を拾い集めていたら、偶然にもアオイガイの大量漂着に出会い、この世界に引きずり込まれました。日本海側の各地では時折アオイガイの大量漂着があります。2015年12月から2016年1月にかけて福井を中心とした北陸地方では、大量漂着のシーズンでした。
アオイガイと黄金比
黄金比は最も美しい比例と言われ、1:1.618の比例は、パルテノン神殿などの古代建築などにも使われていますし、絵画でもその比例が取り入れられているものがあります。この黄金比に内接する螺旋を求めていくと、非常にアオイガイに近いことが分かります。
左のグラフは大量漂着時のアオイガイ殻の縦・横比を表したもので、成長の過程を通しての平均値は緑色で示したもので、1:1.58となりました。この数値は黄金比に酷似しており、アオイガイの美しさはそんな比例にもあるのですね。
アオイガイの造形主・カイダコ
カイダコには、一対の触腕(しょくわん)というしゃもじ型をした腕があり、その腕の膜を開いてこの美しい殻を作り出します。アオイガイが大量漂着する時には、このカイダコも一緒に漂着することが知られています。以前、大きなアオイガイの中に立派なカイダコが入っていたので、いくつか持ち帰りました。食いしん坊の私は、どうしても食べてみたくなり、一番シンプルな塩茹でをして試食を試みました。不味いので有名なムラサキダコとは違い、喰うのに困ることはありませんでしたが、タコの旨みや弾力はなく、ホタルイカのような食感でしたね。カイダコは烏帽子型をした頭部が特徴的で、アオイガイから取り出すと、あの凹凸模様が一部に残っていました。
タコブネ Argonauta hians 直径5~10cmほど
タコ目カイダコ科のタコブネは、アオイガイ同様にこの殻を棲家ではなく、卵を守る揺り篭として作り出します。フネダコには一対の触腕というしゃもじ型をした腕があり、その腕の膜を開いてこの美しい殻を作り出します。
アオイガイに比べて模様が粗く、殻もやや厚め、そして色のバリエーションも多く、やけに黒っぽい個体から、淡いクリーム色の個体まであります。
中部地方では、太平洋側でも見ることはありますが、漂着数は日本海側のほうが多いようです。
オウムガイ Nautilus pompilius
アンモナイトのような殻に入った頭足類で、古生代から基本的にそのままの形態を保つ、生きている化石の代表です。
日本に漂着するものはフィリッピンあたりから流れ着くものが多いようで、中部地方ではこれまでに愛知県豊橋市、田原市、福井県福井市、越前町、石川県加賀市などで漂着が確認されています。
写真は2013年12月に「のぶ」さんによって石川県加賀市で確認されたものです。
トグロコウイカ Spirula spirula 直径2cmほど
深海性のイカの一種で、トグロコウイカ目唯一の現生種です。
体内にアンモナイトのような隔壁のある殻を持ち、 深海性のため生体の発見は稀です。けれども体内の殻は軽くて頑丈であり、死後に軟体部が腐ると殻だけが浮遊して黒潮に乗り、日本にも漂着します。
渥美半島の田原市でトグロコウイカを見つけたのは七夕の日、ふと足元を見たらこの渦巻きがあり、さすがに驚きのあまり、雄叫びの声が出ませんでした。(笑) 温暖化の影響か、2023年は表浜で2個のトグロコウイカの殻が確認されました。
ルリガイ Janthina globosa 直径1~4cmほど
アサガオガイ科の貝は、どれも浮遊性で、粘膜で作った泡のいかだを持ち、それによって浮力を保っているために、殻は軽くてどれも非常に薄く脆いのです。ルリガイと一緒に打ち上げられるクラゲにはギンカクラゲがあり、ルリガイはこうしたクラゲを餌にして、一緒に浮遊生物群を構成して、海面を旅しています。そのために浮遊生物群が岸に接近すると、大量漂着が起き低潮線沿いに青や紫のラインができることもあります。近年では2019年9月23日、台風通過後の渥美半島表浜で、ギンカクラゲを伴ったルリガイの大量漂着がありました。
アサガオガイ Janthina janthina 直径2cmほど
アサガオガイ科のアサガオガイで、世界中の熱帯から温帯にかけて分布し、特に台風接近時に漂着が目立ちます。中部地方では渥美半島表浜や福井県の沿岸でも、コンスタントに打ち上げが見られます。カツオノエボシやカツオノカンムリと一緒に打ち上げられていることが多いので、そうしたクラゲを餌にしていると思われます。左の写真は、コシダカアサガオガイとも言われる殻高の高いタイプです。
アサガオガイもルリガイ同様に、粘膜質の泡を集めた浮嚢(ふのう)を作りますが、その長さはルリガイに比べて短いものです。左はルリエボシが付着しています。右はアサガオガイとその中身、ワタは殻と同じ色をしていました。
2023年4月、黒潮の接近と南風の影響で、静岡県湖西市から愛知県豊橋市にまたがる遠州灘にアサガオガイの200個体以上となる顕著な漂着がありました。
写真にあるようにアサガオガイのほとんどは直径20㎜を超えており、中には30㎜を超す個体も見られました。サンプルが集まり、殻高と直径とを対比させると、コシダカアサガオガイとも呼ばれていた殻高:殻径が、1:1となるものも多く、それらは大型個体に多く見られました。また写真左端にあるような上面も紫色に染まった突然変異個体も確認できました。
ヒメルリガイ Janthina exigua
名前の通り、ルリガイに比べてはるかに小型で、かつ色も彩度が高い美しい貝です。
殻口の湾入も深く、V字型に切れ込んでいます。
タイミングが合うと、大量漂着もあって、数年前に田原市赤羽根町のロングビーチでは数百単位の漂着がありました。ただ拾いすぎると後始末が大変で、小さな個体を真水に浸けておいたら、色が薄くなってしまいました。
ヒルガオガイ Recluzia lutea
ルリガイなどと同じアサガオガイ科の貝だが、これだけ色が茶色っぽく地味な印象です。 他のアサガオガイ科の貝と比べて漂着数は圧倒的に少なく、多くて数個を見るものでした。 2014年8月、渥美半島の表浜では台風通過後にかなりの数が漂着して驚きました。
カメガイの仲間
風に吹き寄せられるカメガイの仲間には、北海道近くにやってくるクリオネもいます。
中でも写真左側のクリイロカメガイ Cavolinia uncinataは、直径6㎜ほど、大量漂着することで知られており、低潮線がこの貝だけで埋もれることもあります。右のササノツユ Diacavolinia longirostris は、直径が4㎜ほど、透明な殻が美しいですね。
穿孔貝 ボーリング・シェル
貝の中には、岩や木の中に巣食うものがあります。木造船がメインだった時代には、フナクイムシなどの穿孔貝によって船体が痛んだことも多かったのでしょう。
今でも流木やココヤシ、ゴバンノアシなどに巣食う穿孔貝が見られます。こうした買いを探すのなら、細かな穴が空いた漂着果実や流木を探しましょう。写真は流木に穿孔したカモメガイモドキです。
ベニガイの不思議 Pharaonella sieboldii
ベニガイは、外海に面した砂浜に生息するニッコウガイ科の二枚貝です。
さて、写真のベニガイ、かなりバランスが違いますね。下は福井の多くの場所で見られるベニガイのバランスと同じものです。上は何だか太っていますね。殻高:殻長比は上が1:2.17、下が1:2.5と数字上でも大きく異なります。実は、上の個体は福井県下のとある原発施設に近い浜で見つかる個体!なぜか、ここで見つかるのは決まって上のタイプなんですが・・・
貝の色
写真の貝はどちらもヒオウギ・Mimachlamys nobilisで、美しく、また美味しい貝としても知られています。
イタヤガイの仲間は、左右の貝があり殻の形が異なっています。紫色は左殻、オレンジ色は右殻です。そしてヒオウギの色は変化に富み、淡色ですが、彩やかなクロームイエローからオレンジ、赤、そして紫へと様々な色合いになります。ですから図鑑を見るときなど、色に惑わされないようにしてくださいね。また、貝の色は時の経過とともに、褪色して淡くなる傾向があります。
貝の模様
写真の貝はどれもコタマガイ・Gomphina melanegisで、福井市三里浜砂丘で拾い上げたものです。
ここで示したものは模様のハッキリしたものだけですが、ほとんど無地や、2本の放射状模様も多くあります。ここに示した模様は山型模様ですが、そのパターンも多く、アサリ同様に模様で識別はできません。。また、貝の色は褪色しやすく、特に青黒っぽい色調は、時の経過とともに茶変する傾向があります。
紫の蓋
越前海岸の礫浜で、ガラス玉のヘソを探していたとき、貝溜まりで美しい紫色の小さな蓋を見つけました。こうした蓋があるのはサザエの仲間なので、それからしばらく気にしていたら、ウラウズガイ Astralium haematragum の蓋と判明しました。残念ながらエージングで今は色褪せてきました。
タテスジホオズキガイ
敦賀湾周辺の各地では、扇型をした赤色の貝殻が見つかることがあります。放射状の模様の目立つこれは、タテスジホオズキガイの殻で、貝と名前がつきますが、二枚貝ではありません。タテスジホオズキガイは、古生代のスピリファーの流れをくむ腕足類です。これはいくら貝の図鑑を探しても載っていないので、ここにアップしておきますね。
私のフィールドで、出会うタカラガイは、限られた種類のものしかありません。もちろんベリジャー幼生が海流に乗ってたどり着き成長することはありますが、稀なことです。
渥美半島の表浜では、上記の6種は定着していると思われます。出現頻度はメダカラ>チャイロキヌタ>ハツユキダカラ>ハナマルユキ>オミナエシダカラ>カモンダカラといった感じでしょうか。
福井県の海岸はもっと少なく、定着していると思われるのはメダカラ>チャイロキヌタくらいです。
タカラガイたち
ビーチコーマーの中には、貝の大好きな「貝マニア」と呼ばれる人たちがいます。彼らの知識はものすごく、また生貝を採集して身を抜き、標本作りにかける労力は、半端なものではありません。
オレの場合、それほどの知識も無ければ、手間かけるのも面倒なので、浜辺で拾う「打ち上げ貝」専門です。(笑)それに洗い方もいい加減なのか、標本から砂が落ちることもしばしば・・・タカラガイもクラフトの材料ですから!
貝の卵殻 ヤツシロガイ
貝の卵には様々な形があります。
ビニール製の緩衝材のプチプチに見えるこの写真は、渥美半島や福井の沿岸に生息するヤツシロガイの卵殻です。この円形の中に幼貝が入っていて、それが抜けたあとがこの状態になっています。
時期によっては、中に幼貝が入っていることもありますが、抜けたこの状態で見かけると、ビニールゴミに見えますね。
貝の卵殻 コロモガイ
貝の卵には様々な形があります。
渥美半島の表浜では、初夏のころに薄っぺらな防水型をしたビニールシートに釣糸の様なものがくっついた卵殻を見ることができます。これは「チャンチャンホオズキ」と呼ばれるもので、コロモガイの卵殻です。貝も打ち上げで見ますが、この卵殻は単独で打ちあがり、まとまったものを見たことはありません。
貝の卵殻 アカニシ
貝の卵には様々な形があります。
渥美半島の表浜では、初夏ころから紫ぽい卵殻が打ちあがります。
この卵殻の一つは、大昔の武器である「なぎなた型」をしているために、「ナギナタホオズキ」と呼ばれています。
ナギナタホオズキは、アカニシの卵殻です。また渥美半島ではアカニシをニシ貝と呼び、食用にしています。
貝の卵殻 ツメタガイの砂茶碗
干潟から、内湾の砂地、外洋に面した砂地といった広範囲でツメタガイや、その仲間のタマガイの仲間は暮らしています。
繁殖の時季は夏を中心としており、その時期には写真のような状態で、砂を薄っぺらなシート状にした物の中に卵を産み付けます。
これを砂茶碗と呼んでおり、産卵後の砂茶碗が浜辺に打ち上げられることがあります。
打ち上げられた砂茶碗は、厚さ2ミリほどのもので、破損が少なければ、写真のツメタガイを外したようなドーナツ形となり、底の抜けた茶碗になります。